各章で取り上げられる事例(CASE)の見出しには、取材中に発せられた介護者たちの言葉がそのまま使われている。
「私は母のことを、母の皮をかぶった化け物だと思っていました」
「後悔はしていない。悪いことをしたと思うてる。でも、ああするよりほかなかった」
「家族が何人いても、結局介護者は一人だけです」
「結局、逃げたもの勝ちなんですよね」
これらを見るだけでも、介護者の悲痛が伝わってくる。
こんな事をしてまで生きている意味はあるのか、いつまで続けなければいけないのか、自分を人間だと思ったらだめだ、感情を捨てないと心が持たない、今ならこいつを殺せそうだ…
私も仕事(介護ではないが)でこのように思ってしまうことはあるが、介護者たちも同じようなことを、私よりもはるかに切実に思いながら日々をやり過ごしているのだろう。本書には、「介護は終わりのないマラソン」「介護ロボット」という言葉も出てくる。介護者が置かれている地獄のような精神状態や孤独をよく表していると思う。同情を禁じ得ない。
そう遠くない将来、自分の親の人格が変わってしまい徘徊や暴力の症状が現れてきたら、自分はそれを病気の影響だとして受け入れることができるだろうか。受け入れることができたとして、そこから始まる長い介護に耐えられるだろうか。本書に出てきた介護者たちと同じ末路を辿らない自信はない。