家を建てているけど家を建てられない
貯金は大事に使おうと思っていたのに、コロナショックによるインチキ相場ですべて吹き飛んだ。
10年ぶりと言われる高ボラ相場に、ショートで参戦して盛大にやられた。そのまま我慢して持ち続けていれば大儲けだった。後の祭り。
建築現場で仕事をしていると、周りの職人たちの中には金に困っている人が少なくないように見える。大工にしても土方にしても何にしても。そういう人たちはだいたい、安い金で週6日働かされて、たまの休みに競馬やパチンコで散財している。
現場で競馬の話をすれば、たいていの人とは話せる。初対面でも、明日の重賞の予想をいっしょにすることがある。楽しい。その場限りで会わなくなる人も多いので、いちいち名乗ることは少ない。私は「競馬のにーちゃん」と言われて認知されたことが何度もある。
土曜日に仕事をしていると、若い夫婦とその親が小さな子どもを連れて新築の我が家の進捗状況を見に来ることがよくある。幸せそうにああでもないこうでもないと言っている様子を近くで見ているのは、私はあまり好きではない。
新築現場で作業している私は、自分の家を建てられるほどの金をつくることは絶対にできない。マジメに節約生活をしても、買えるだけの金に届く頃にはもう働けないくらいの老体になっている。そもそも、今の収入だとローンなんて組めないかもしれない。自分と同世代のお客さんが家を建てられているなんて、信じたくないのかもしれない。
だから、ギャンブルに手を出すんだ。一発逆転を狙うしかないんだ。効率が悪いのはわかっている。負けてもやるんだ。やるしか方法はないんだ。
老後2000万円必要とも言われているけど、自分に老後なんてない。動けなくなったら終わり。
子方がギャンブルに狂っていても、親方連中が博打大好きという話はあまり聞かない。偉い人たちは、我々のような奴隷を働かせたほうが効率よく稼げるからだろう。私の雇い主も、私がギャンブルをやめられずに苦しんでいるのが理解できないらしい。それはそうだろう。いい身分である。
先週から貧乏生活に突入した。仕事中唯一の楽しみだったはずの昼飯の量も減らさざるを得なくなった。こうしてまた、ギャンブルに手を出す理由ができていく。